五「失礼します」 昌浩が緊張した面持ちで晴明の部屋へと入る。 どうしていいかわからないはあたふたと周りを見渡して、物の怪が頷くのを確認して、一礼して入った。 小さく、物の怪に向かって、ありがと、と礼を述べる。 おうよ、と軽い返事が返ってきた。 どんな人だろう、とは思ったが、一目見て、唖然としてぽかんと口を開いた。 こんなに年をとっていらして、しかもまだ現役の期待の陰陽師、安倍晴明。 何で知らなかったのだろうかと、頭を抱えたくなった。 「はじめまして」 深々と再度一礼。 もうほんとに奇跡のような人だ、と感嘆する。 昌浩はそっとを盗み見た。 安倍晴明を知らないって、何でだろう。 どこから来たのだろうか。 陰陽師、と言っていたけど。 だったら、何でじい様を知らないのだろう。 色々な疑問がぐるぐると頭の中を回り、昌浩は暫く絶句していた。 晴明を見つめて、ははっきりとした口調で名乗る。 「私は、藤 と申します。一応陰陽師、です」 「ほう、殿か」 にこにこと楽しそうに笑う晴明は、ふとまじめな顔になった。 「して、どこからいらしたのかな?」 はどう見ても昌浩より年下だ。彰子と同じぐらいか。 そんな少女が、しかも一人で、妖と退治していた、と式を飛ばしてみていたが。 「それが……」 は少し口をつぐみ、考えるように人差し指を唇に当てた。 あどけない表情。 一つ一つのしぐさが可愛らしい。 「わからないんです」 困ったように眉根を寄せて、うーん、とは唸った。 「そうか」 晴明はにこにこと笑いながら、昌浩のほうを向いた。 「昌浩」 「はい?」 絶句していた昌浩は、急に呼ばれて居住まいを正した。 物の怪が座ったまま、晴明を見上げた。 「殿を空いている部屋に案内しろ」 暫く呆然とした昌浩は、物の怪のおーい、昌浩やーい、と言う呼びかけで我に返った。 「……はい?」 「殿」 「はい」 はぱっと顔を上げた。 ここに暫く住むといい」 突然の申し出に、はぱあっと顔をほころばせた。 嬉しそうに微笑む。 「ありがとう、ございます!」 一礼して、晴明の顔を見た。 彼は、ずっと笑っていた。 「」 唐突に、横から声がかかって、はゆっくり横を向く。 直立した物の怪と、昌浩がこちらを見つめていた。 「よろしく」 昌浩が、微笑して言った。 「よろしく、お願いしますっ」 いささか緊張したように早口で、舌をかみそうになりながらは礼をした。 「おうよ!」 物の怪がにまっと笑った。 ←/→ back |
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