8月31日、晴れ

 シャク、シャクシャク。
 西瓜って音まで食べる果物なんだなぁ、っていつも思う。
 夏の蒸し暑い気温に、前歯に当たるこの歯触りが心地よい。甘過ぎない果肉は水分をたっぷり含んで、熱中症も防ぐのかなぁ。
 チリン、チリンと涼しい音がするのは、今年の夏休みにガラス工房で作った手作りの風鈴。
 ちょっといびつな丸だけど、まあそれも愛嬌。音に聞くところでは、そう悪い出来でもないでしょう?
 こうやって、(ひさし)の張り出た日陰の縁側で、風鈴の音を聞きながら西瓜を食べるなんて、夏満喫って感じだよね。
 実は、明日から新学期が始まっちゃうんだけどさ……。

 見ての通り、わたしとジローは西瓜を片付けている真っ最中。
 時期外れのお中元で、親戚のおばさんが一抱えもある大きな西瓜を送ってくれたんだけど、これがなかなかのくせ者。大きすぎて、とても冷蔵庫に入りきらないんだ。お母さんはひええ、と本気で悲鳴を上げてたっけ。
 西瓜はしばらくプカプカとたらいに浮かんでいたんだけど、まだまだ残暑も厳しいでしょ?
 このまま置いておいたら腐っちゃう。
 と言う訳で、隣からジローを引っ張ってきて、早急にお腹に納める事になったんだ。

「美味しいねぇ、この西瓜!」
 最初はそう言って感動していたジローも、今は口数が少ない。
 そりゃそうだよね、こんなに西瓜ばっかり食べなきゃいけないなんて、さすがに飽きてしまう。
 なにせ、一人のノルマが1/4なんだ!!拷問に近いよ、お母さん!

 カブト虫になった気分で、それでも次の一切れに手を伸ばしたわたしを、ジローが横目で見ている。
「よく食べるね、……」
「だって、まだこんなにあるんだもん」
 後ろを指差せば、半分になってタオルが掛けられた西瓜入りのたらい。相変わらず、うんざりするほど大きい。
「それにさ、お母さん夕食に西瓜使うとか言ってるんだよ? 『料理は日々挑戦よね!』とか言って…。わたし、やだもん。西瓜の肉炒めとか」
「うわ、おばさん過激ー!」
「こら、笑い事じゃないんだから!!」
 ケラケラ笑っているジローの脇腹を、足を伸ばして蹴っ飛ばす。
 彼はうっと呻いて、腹を庇って丸くなった。
凶暴ー! お嫁に行けないぞ!」
「ふんだ」

 大きなお世話、と鼻息であしらい、ぱかっと口を開けてとんがった西瓜の先を齧ろうと――した瞬間。
 ジローがわたしの手首を捕まえて、ぐっと引き寄せた。

「わわ、何すんの!」
「ちょっと味見ー」
 シャクリ。
 白い前歯がちらりと覗き、三角の先っぽを奪っていく。
 その仕草に、何故だかちょっとだけ心臓が跳ねた。

「馬鹿、全部同じ味でしょ!!」
「あはは、そっか!」
「しかも一番甘い先っぽのとこ食べたわねー!!」
「だってそこが好きなんだもん」
「もう、ジロー!!」

 間接キス、とか下らない単語がチカチカするのを精一杯無視して、わたしはわざと怒った顔で、西瓜を一口頬張った。
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