小さな秋、見つけた

 ぽかぽか。背中が暖かい。
 縁側でだらりと丸めた背の上に、控えめな秋の陽が差していた。
 もうちょっと暖めてくれてもいいのに、と思うほど、西日は柔らかく細い。
 段だら模様の半纏の肩を揺すって、喜助はもっと効率よく熱を吸収しようと足掻いた。

「……おや、夜一サン、あなたも日向ぼっこに?」
 しなやかな長い尾をくねらせて、身綺麗な黒猫が喜助の上着の裾を踏み付けた。
「うわ、夜一サン外から帰ってきたんデショ? 人の服で足拭かないで下さいヨ!」
 縦縞の帽子の下から彼は情けない声を出した。慌ててパタパタと着物の裾を叩く。
 黒猫は知らん顔で、脇で毛並みを整えていた。

「夜一サン…!! 聞いているンですか?」
「ニャー」
 夜一はまるで人間のようににんまりと笑んで、よそゆきの声で鳴いてみせた。
「こ、こんな時ダケ猫のふりを……!」
「にゃーん?」
 生まれてこの方、猫以外の何かであったことはないゾ、と言いたいばかりの鳴き声だった。
 普段は猫扱いすると怒るくせに……喜助の相棒は、勝手だ。

「全く……」
 男はため息を吐いて、ヒゲの生えた顎をさすった。懐に手を突っ込んで煙管を取出し、火を点けて紫煙を吸う。
 猫の方は、さっさと丸まって本格的なくつろぎ体勢だ。
 目の前で、ひらりと庭木の葉が落ちた。

「ああ、秋ですネェ……」
 猫の黒い毛並みが、橙の西日を艶やかに弾いた。
 半纏越しに、人より高いその体温がじんわり彼を(ぬく)めた。



 空が(あけ)に染まる、喜助の大好きな時間まで、あと少し。
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