ジェットコースター・ホリディ

「ね、遊園地行こう!!」
「え?」

 部屋に入るなり息せせきってそう言い出したジローに、わたしは目をぱちくりさせた。
 遊園地?つまり、連れていってくれるって事なのかな?
「どーゆー意味なの? ジロー」
「そのまんまだよ! オレたち、今度の日曜に遊園地行くんだ! も一緒に行こうよ」
「オレ『たち』?」
 嫌な予感にわたしは額に汗をかく。
 ジローはそんなのちっとも気付いた様子はない。あっさりと、首を縦に振る。
「うん、テニス部の三年と行くんだ」
「だ、駄目だと思うよ、それは……」
「え、なんで?」
 なんで?じゃないよ、そういうのは普通、部外者が付いていっちゃ駄目なんだって!
 そう必死に言ったのに、ジローはちっとも分かってくれないんだ。

「平気だよ! 皆のこと知ってるし。日曜空いてるんでしょ?」
「そういう問題じゃないんだって」
「それに、皆良いよって言ってたもんね! ほら、大丈夫だから行こう行こう!」
「……本当にいいの?」
「うん! だってオレ、と一緒にジェットコースター乗りたいんだもん」
 ……そんな顔でわたしを覗き込むのは反則だ。反論できなくなっちゃう。
 幼稚園の頃からずーっと、わたしはこのパターンで説得され続けている。
 もう最近はわざとそうしてるんじゃないかって思ってしまうぐらい。

 でもやっぱり、今回も、
「……何時に待ち合わせなの?」
「わーい!!」
 わたしはジローに負けてしまった。



「本当に連れて来たんやな……」
「そー言ったじゃんか、侑士!」
 日曜日、わたしはやっぱり後悔していた。
 忍足くんに跡部くん、向日くん、宍戸くん、滝くん……皆不思議そうにわたしの事を見ている。淡いピンクのブラウスに、デニムのスカートが妙に場違いな気がして、わたしは身を小さくした。

「ご、ごめんね、皆! やっぱり、わたし、帰る!!」
 慌てて回れ右をしようとすると、忍足くんがその肩を引き止めた。
「や、全然ええよ。ちょっと驚いただけや」
「このまま帰ったら電車賃勿体ないぜ。も遊んでけって!」
「今更一人増えたって変わんねーよ」
「あ、ありがとう……でも」

 皆気を使ってくれてる。
 そりゃ、部活が違うといっても、初等部からの付き合いだし、同じクラスになった事もあるし、一対一ならもっとまともに会話も出来る……と思う。
 でもやっぱり、この面子に飛び込んでいくのは勇気がいる。

 わたしが困って首を傾げると、ジローはこの妙な気まずさをちっとも気にしないで言い放った。
「ほーら、いいって言ったじゃん! 早く中入ろう!」
「あんたのせいでしょ、ジロー!」
 思わず怒鳴りつけると、クスッ、と笑い声が漏れた。
 真っ赤になって振り返る。口元に手を当てて笑っているのは、跡部くんだった。
、いいからフリーパス買って来いよ。こいつらも言ってる通り、ここまで来て帰るのも馬鹿らしいだろ?」
「う、うん。ありがとう、跡部くん…皆も!」
「ほら、、早くー!!」
「もう、ジローはわがままなの!!」
 早くも券売機のところで手を振っている彼に、文句を言いながらも後を追う。

 なんだか凄い事になっちゃったけど、せっかく来たんだから楽しむしか無いよね?
 ジローには、責任を取ってお昼でも奢ってもらわないと。

 現金なわたしはすこし楽しくなって、黄色いスニーカーをまた一歩、踏み出した。



「それにしても、本当に連れてくるとはなー」
 も大変だ、と滝が長い髪を撫で付ける。
 残されたテニス部の面々は、券を買いに行った二人の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「あの二人、付き合ってんのか?」
は違うって言ってたんやけどなー…」
「でももう、あそこまで来たら付き合ってるみたいなもんだろう」
 だって普通、彼女でもない女を自分のグループに引きずって連れてくるか?
 妙に説得力のある宍戸の言葉に、皆一様に頷いた。

「昔から仲良かったもんなー……」
「ジローに先越されるとは……」
「普段寝てばっかりいるくせに……」
「どうでもいいじゃねぇか、そんな事。当人同士に任せておけよ」
 跡部一人がしたり顔で、噂話に乗ってこない。自分だって興味あるくせに、と岳人がこっそり舌を出した。

「何の話してんの?」
 戻って来た慈郎が輪に首を突っ込む。
「ただの世間話や」
「ふーん?」
 忍足がはぐらかすと、彼は納得したんだかしてないんだか、相槌を打った。
 それから後ろを向いての位置を確認して、声を潜めて仲間に宣言する。

「お前ら、に手出したら承知しないんだかんね!」
「……はいはい」

 彼等が呆れて振り仰いだ空は、雲一つない快晴だった。
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