マシュマロキッス

「あら、こんにちわ。ウォンカさん」
「どうも」
 道で偶然出くわしたウォンカは、いつも通り気取ってて偉そうだった。でも、それは周りに対するバリケードだと知っているから、彼女は気を悪くなんかしない。尤も、彼女をよく知る人に言わせれば、この娘は滅多に気を悪くしないのだけど。
「今日もお使い?」
「まあね」
 ジロジロと無遠慮に、ウォンカは娘の顔を眺めている。それならば、と彼女もウォンカをとっくりと見た。
 山高帽はツヤツヤしたビロードが張られて、飴細工のような頭文字のwが首元で優雅にワルツを踊り、メレンゲよりも青白い顔を奇妙なおかっぱが縁取っている。歯医者のような薄いゴム製の手袋はしっかりとステッキを握りしめ、タキシードの袖口に飴玉みたいにピカピカのカフス。磨き上げた上等の靴は、溶けたチョコレートの光沢を放っている。
 およそ普段着ではない服装だが、彼女が見るウォンカはいつもこんな格好だ。

 帽子の天辺から爪先まで彼を観察し終わって、それでもまだにらめっこが続くので、痺れを切らして聞いてみる。
「ところでウォンカさん。わたしの顔に、何か付いているの?」
「初めて見た時から気になっていたんだけど、」
 ウォンカは人見知り特有の不器用さで彼女の話をぶった切り、唐突に話し始めた。
「きみの目って本当に見えてるの? もしかして、いちご味のキャンディなんじゃない? 一度舐めてみた事あるかい?」
「なあに、それ? もしかしてもしかすると、褒めてるのかしら」
「ないの? あるの? ああ、やっぱりどっちでもいい」
 試してみよう。

 言った途端ずいと彼の顔が近くなり、カカオの香りが鼻先をくすぐる。襟のWがすぐそこでキラキラ光っていた。さすがに面食らって、彼女は目を閉じる。
 敢えて音に表すなら、ぺろり。
 瞼の上を湿った何かがなぜて、その暖かさに娘はひどく当惑した。

「ふむ、思い違いだ。ストロベリーキャンディーというよりは、マシュマロだな」
 ああ、そうだ、次はいちご味の羊を作ろう。毛を狩るたびにいっぱいのマシュマロを付ける羊をね。挨拶もそっちのけで、ウォンカはブツブツと呟きながら、工場の方へと帰っていく。
 それを唖然と見送りながら、娘は冷えてひんやりとしてきた左の瞼を手で覆う。

「ウォンカさんって、やっぱりちょっと変わってるわ」
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