テスト対策(未解決)

 太陽は、ギランギランと凶暴に輝いている。
 石造りのこの建物は、熱をそう簡単に伝えない堅物だけれど、図書館のガラスの窓からは殺気さえ篭った光が容赦なく入り込む。
 まるで、この光に当たったら蒸発して死ぬ、とでも言わんばかりの勢いで、はローブの裾を引っ張って白い帯から避難した。

「……おい」

 日が傾くとともに、ジリジリと帯が彼女の方へ迫ってくる。
 学校指定の黒いローブは大変効率良く熱を吸収するから、この強烈な日光を喰らったら確実に背中が焦げるだろう、とは思った。

「…………

 5ミリほど椅子を脇へずらす。それでも2分後には、その場所にいないだろう。白い帯に追いかけられているのだから。
 はローブを脚に引っかけないように、用心深く、再び椅子を動かした。

!!」
 ガタンッと椅子を蹴倒して、向かいのセブルスが立ち上がったので、はびっくりして顔を上げた。
「何よ、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない! 今すぐ動くのをやめるか、さもなくば僕がここから出ていくかだ!!」
 途中で図書室にいることを思いだして、セブルスが声を潜めて早口で言った。
 眉間の皴が3センチぐらいの高低を作っているのを見、自分と彼との間を見、もはや向かいに座っているとは言えないぐらいに距離が離れているのを見て、はおお、と手を打った。

「何でそんなに向こうに行っちゃったのよ、セブルス。勉強見てくれるって約束したじゃない」
「お・ま・え・が動いてるんだ!!」
 歯ぎしりした口の向こう側から、セブルスが言葉をひねり出した。ビシリと目の前に人さし指を突きつけられて、は少なからずムッとした。
 この無礼者め、人を指さすなんてけしからん。
 が、目の前の眉間の皴を見て、その言葉は頭の中だけに留めておいた。

「貴様、勉強する気がないなら最初から人を巻き込むな!!」
「レディーを貴様だなんて言わないでよ、セブルス。だって暑いんだもの」
「夏が暑いのは当たり前だ!」
 この馬鹿め、と見下したようにセブルスが鼻を鳴らした。仕方なく彼の向かいまでずりずり移動してきたが顔をしかめる。
「ああ、暑い。勉強したくない。早く夏休みになれー」
「ではとっとと落第して学校から去れ」
「…冷たいねぇ、セブルスくん」
「馬鹿に付きあっている暇はない」
 いらいらとセブルスが机の上のものを片づけ始めたので、彼女は慌てて彼の手を掴んだ。
 細長く骨張った、血色の悪い手がビクリと動きを止めた。

「ごめんごめん、ちゃんとやるから、防衛術教えてプリーズ!」
「信用ならん」
 うざったそうに少女の手を振り払って、セブルスが慌てて手を引っ込める。
「大体、そんなに気になるのならカーテンを閉めればいいだろうが!」
「あ、そうか!」
 気付かなかった!と目を丸くして、がカーテンを引きに立って、少年は盛大にうざったそうな顔をしたのだった。



 カリカリと動く羽根ペンは、徐々に勢いを失って、遂にはパタリと倒れる。
「サボるな」
「…………」
「……帰るぞ」
 羽根ペンと一緒に突っ伏していた少女が、のそのそと顔を上げた。手元の羊皮紙に掛かった銀の髪の一束を、セブルスが嫌そうに退けた。

「だってぇー」
「やる気が無いやつに教えるほど無駄な作業はない」
「や、ちゃんと聞いてるけどぉー」
「語尾を伸ばすな!!」
 ヒクヒクと神経質に動くこめかみを、ぼんやりと眺める。
 細かいなぁーセブルスは。
「帰るぞ!」
 おっと、つい口に出ていたらしい。
 待って待って、と慌ててがローブの端を掴んだから、セブルスがちょっとよろけた。

「ほら、いいもの見せてあげるから」
 ね、と首を傾げた彼女が、いきなり椅子に片足を上げてローブとプリーツスカートを捲りだしたので、少年はギョッとして左右に視線を振った。
「な、何をしている!」
「ほら、これこれ。こないだ階段から落っこちてぶつけた痣ー」
 白い指が指し示した膝ちかくに、大きくいびつな楕円の痣が乗っかっていた。
 黒く沈んだ紫の痣は外側が青く、更にその周りが黄緑色で、何ともグロテスクな色彩だ。彼女の白い足に、誤って絵の具を飛ばしてしまったかのように浮いていた。
 ちなみにちっとも「いいもの」ではなかった。

「うえー酷い! 押すと痛いし…。つかあん時恥ずかしかったなぁー、急に階段を動かすなんて、この学校は狂ってるよ! ダンブルドアも、何考えてんだよ!」
「さっさと足をしまえ!」
 ここが端の席であることが唯一の救いだ、とセブルスが背後を気にしながら唸る。
 目の前のクラスメイトを女として意識しているか、と問われたならば、答えははっきり“NO”である。
 が、暗い図書室に眩しい白い足がローブからにょっきり出ていることは、この上なく彼を落ち着かなくさせた。

「え、もしかしてパンツ見えてたかい?」
「知るか!!!」



 遂にバァーンと思いっきり机をぶっ叩いたセブルスが、もろともマダム・ピンスに追いだされたのはそれから3秒後。
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