児童ポルノ規制法についての覚え書き

 正式名称を「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」といういわゆる児ポ法については、改正案に関連して、様々な言説が流布している。それらはしばしば、何らかの誤った理解に基づいている。それらにその都度突っ込むとかそういうのもアレである。そこで、以下に、2013年の改正案とこれに関連する事項を中心に、誤解されがちな論点とあまり知られていないらしき諸点、さらにその周辺も含めて諸々を記しておく。その際、読者に予備知識をなるべく求めないことと、無闇に話を広げないことに留意した。同時に、改正案との関連の有無に関わらず、改正案と過去の規定等を一覧可能なように引用した。
 これは、逐条解説ではない。体系的な説明も詳細さも、ここにはない。どちらかと言うと、しばしば見られる誤った児ポ法攻撃に向けた批判であるとでもお考え戴く方が、まだ正確だろう。以下は、基本的には、こういうことになっているとか、このような扱いがなされてきたといったお話に過ぎない。その延長線上に考えられることが確認されたり、多少はっきりしないお話に言及された部分もある。しかし、それらは補足的なものである。諸説の当否を語らない訳には行かないが、善悪の価値判断はしていない。

 この覚え書きが、2013年現在の現行法と改正案について、その筋以外の方がある程度理解し、さらには追加的な情報をググるためのお役に立てれば、幸いである。てゆうかむしろ、そういう時に使い物になる基本的な前提についてのお話をまとめたものが意外と見つからないので、作ってみたという感じである。

 下記の文中、この赤っぽい背景色で太目の実線に囲まれているのは1999年の制定時の条文であり、この青っぽい背景色で細い二重実線に囲まれているのは2004年改正後の条文であり、この灰色っぽい背景色を太めの点線が囲っているのは2013年の与党側改正案である。変更がない場合は、最も古いもののみを引用している。以上に加え、この緑っぽい背景色を破線で囲んで、1998年の自社さ案の条文の一部を掲げている。このようにしたのは、1999年に成立した法律の第八条以下に相当する部分を除き、かつ、成立したそれと内容が異なる箇所のみである。制定された法律に関連しては、改正による変更点の一部を強調している。【】内は、直前の記述に関連して参照すべきものである。なお、国会の議事録のうち参議院のものへは、直接のリンクをしていない。
 これを印刷する利用者のためには、文字が切れて読めないことのないよう配慮した。しかし、それ以上の配慮は十分でない。とりわけ、背景として扱われる画像が印刷されない場合があることには注意されたい。
 以上および以下は、2013年10月05日に最初に記し、2014年5月20日までに補訂されたものである。
 何人かが本稿を引用する場合、このページのURLを併記することによって著作権法上の問題を回避することを要求する。

ページ内目次 逐条 第一条(目的)  第二条(定義)  第三条(適用上の注意)  第四条(児童買春)  第五条(児童買春周旋)  第六条(児童買春勧誘)  第六条の二 (児童ポルノ所持等の禁止)  第七条(児童ポルノ頒布等)/(児童ポルノ所持、頒布等)  第八条(児童買春等目的人身売買等)  第九条(児童の年齢の知情)  第十条(国民の国外犯)  第十一条(両罰規定)  第十二条(捜査及び公判における配慮等)  第十三条(記事等の掲載等の禁止)  第十四条(教育、啓発及び調査研究)  第十四条の二(インターネットの利用に係る事業者の努力)  第十五条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)  第十六条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)  第十七条(国際協力の推進)  2013年改正案附則第二条(検討)  全体 予算との関係  違憲の主張  影響の有無

凡例
 参照すべきものについて文中で簡略化した表記を用いたものの詳細は、次の通りである。
略語詳細
145参8145回国会参議院法務委員会議事録8号(1999年04月27日)
145衆11145回国会衆議院法務委員会議事録11号(1999年05月12日)
145衆12145回国会衆議院法務委員会議事録12号(1999年05月14日)
園田1999園田寿著「解説児童買春・児童ポルノ処罰法」(所蔵:ciniiカーリル
森山2005森山真弓・野田聖子編著「よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法」(所蔵:ciniiカーリル
高市2013高市早苗公式早苗コラム6期目の永田町から「児童ポルノ禁止法改正案」Q&A (2013年10月9日現在の魚拓)

逐条

第一条 (目的)

 この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定め、もって児童の心身の健やかな成長を期し、あわせて児童の権利の擁護に資することを目的とする。

 この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。

 この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

 第1条は、児童を保護するために法が制定されたことを示している。この考え方は、2004年の改正によって更に強調されている。
 条文に書かれない範囲でも、この法律が「性的搾取」や「性的虐待」から児童を守るために作られたことは、しばしば語られてきている145衆12の円より子発言[047][049]、森山2005のまえがきを含む全体、特に139・152頁等参照。】。しかし同時に、「児童を性の対象とする風潮」も問題視されてきている【森山2005の140・160頁参照。】。もっとも、これは「刑罰法規とは違った意味の部分」の問題に過ぎないともされる145衆11の枝野幸男発言[004]・円より子発言[005]。】
 この規定に沿って考えるだけでも、罰則が個人的法益の保護に向けられていることを理解できそうである。この点については別項で扱う。
 この第1条の趣旨は、猥褻ないしはエロとかいやらしいものへの規制として児ポ法を捉える立場の誤りをも示す。その種のものに向けられた法規制と児ポ法は、出発点からして異なる。このことは、海外の立法例を見れば、より明らかである。例えばフランスには、猥褻一般に関する日本の刑法第175条に相当する法規制がない。しかし同国では、児童ポルノに関する行為が、1994年に犯罪とされている。

第二条 (定義)

A この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、性器、肛門若しくは乳首に接触することをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
B この法律において「児童ポルノ」とは、写真、絵、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 性交等に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの
二 衣服の令部又は一部を脱いだ児童の姿態であって性的好奇心をそそるものを視覚により認識することができる方法により描写したもの
三 専ら児童の性器又は肛門を視覚により認識することができる方法により描写したもの(専ら医学その他の学術研究の用に供するものを除く。)

@ この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
A この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、後見人その他の者で、児童を現に監護する者をいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
B この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの

B この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 定義である。児童ポルノと呼べなくもない何かがあるとき、それがここで定義された児童ポルノに該当する場合に限って、関連する決まりが適用される。そして、この法律は、そうでないものを児童ポルノとして扱わない。独自の定義を語りたがる向きもあるが、それはこの法律の解釈にとって無意味である。

第1項 児童

 第1項にある児童とは、18歳未満の人である【森山2005の153頁参照。】性別による区別はない【広く報道された、起訴されなかった河西智美の事案では、男児の存在が映像を2号ポルノとしていた。ブログ「奥村弁護士の見解」中の、2013年1月10日の記事同12日の記事同18日の記事等参照。】
 この法律に関連しては、未成年という文言は、正確な説明にとって無意味であり不要である。成年は、民法第4条に20歳と定められている。これを児ポ法第2条第1項と照らし合わせると、18・19歳の人は、未成年であっても、この法律に児童として扱われないことが明らかである。
 この定義には、年齢以外の要件が存在しない。それ故、この法律は、婚姻した18歳未満の女性を児童として扱い、同時に、18歳に達した高校生を児童として扱わない民法第731条第四編中)により、女は16歳で婚姻可能であり、婚姻した未成年者は、民法753条によって民事について成年を擬制されている。】。この定義が、他の法律の定めの影響を受けないためこのようなことになる【2005年3月1日の福岡高等裁判所那覇支部判決が、婚姻による成年擬制が無視されることを不当でないとしている。】。なお、児童買春と似た状況を扱う各都道府県のいわゆる淫行条例においては、婚姻による成年の擬制によって保護の対象から外したり、保護の対象から一定の低年齢層を除いたりする例がある【条例の詳細は、別ページに用意した比較あるいは条文参照。】
 18歳までを児童とする定義への疑義が見受けられる。しかし、法律が定義をわざわざ置いている以上、解釈論としては疑問の余地がない。なお、サイバー犯罪条約第9条【容易にアクセスできるサイバー犯罪条約の解説として、通商産業省の報告書(pdf)がある。また、森山2005の73-74頁参照。】児童の権利条約第1条も、少なくとも原則的には18歳未満を保護の対象としている。条約等に照らしても、この年齢を引き下げ、あるいは一部の年齢を別扱いすることが、立法論として不可能とは言い切れない。しかし同時に、異常に高い年齢が定められているというわけでもない。例えばドイツの場合、かつて14歳未満のみを日本法でいう児童として扱っていたが、諸条約とEU法に整合するよう、14歳以上18歳未満の青少年について児童に近い扱いを2008年の法改正で導入し、児童ポルノ規制の対象となる年齢を引き上げている。
 なお、児童の定義は、法律によって異なる場合がある。例えば労働基準法は、第56条等で、中学校卒業年度の終了までの人を児童として扱う旨を定める。児童という多義的な文言を用いる以上は、この第1項のような定義が必要である【園田1999の20-22頁参照。】

第2項 買春

 第2項が用いる「買春」の語は、悪いのは児童ではないということを示す端的な表現である145衆11の円より子発言[087]等参照。】。なお、買春の語は、辞書に見られる「ばいしゅん」ではなく、「かいしゅん」と読むこととされている【145参8の円より子発言[018]、森山2005の159頁等参照。】。
 この法律の児童買春となるのは、一定のそれらしき行為に対償の供与が組み合わさった場合のみである【園田1999の22-23頁、森山2005の162-164頁参照。】。対償の供与ないしその約束がない場合、一般的にはいわゆる淫行条例の問題として扱われ、場合によっては刑法児童福祉法上の犯罪ともなる【園田1999の22頁、森山2005の165-166頁参照。淫行条例については別ページに用意した比較あるいは条文参照。】
 なお、この法律は、対償なき場合について何ら定めを置いていない。このことは、その種の事案に対しての規制を否定する趣旨ではない。似た規制が別に存在しても、この法律と矛盾するわけではないとされている【2012年7月17日の東京高等裁判所判決。】

第3項 児童ポルノ

 第3項は、児童ポルノの定義を置く。重要なのは、ここで「ポルノ」という文言が用いられてはいるものの、一般的に想像され、あるいは法律関係者が通常用いる意味のポルノとは内容が異なることである。児童ポルノの定義は、いわゆる「ポルノ」と連続的に理解されるべきものではない
 この定義の中身は、三つの号に分かれる。この部分については、どのような定義であれ、何らかの程度で曖昧さが問題となり得ることに違いはない【園田1999の25頁以下参照。】。曖昧であるというだけの簡潔な非難が時折見られるが、無意味である。
 その種のものを児童ポルノと呼ぶことの問題性への指摘がある。子どもポルノとか児童虐待生成物といった様々な言い換えが提唱されあるいは使用されている。それらの見解につきどのように考えようとも、この法律の解釈を論ずる限りは、法律の用語に従わざるを得ない。

「物」

 第3項本文は、一定の「物」を児童ポルノとする旨を定めている。第7条で物以外に関連して込み入った表現がなされるのは、この古典的な定義ぶりの維持とネット関連の処罰を両立するためである。送受信されるデータは、単純な意味で「児童ポルノ」とは呼ばれない。

児童の実在性

 描写される児童には、実在することが求められる【145参8の大森礼子発言[028]、145衆11の大森礼子発言[037]、森山2005の182-183頁参照。】。実在する児童を保護するこの法律の趣旨からの帰結である。
 絵等は、「実在する児童の姿態を描写したものであると認められない限りは」児童ポルノに含まれない【145参8の大森礼子発言[028]、高市2013の問14参照。】。反面、実在する児童の描写であるならば、写真でないものを児童ポルノとすることを法が許容している。写真でなければ大丈夫というのは、妄想である【森山2005の181-183頁参照。】。なお、深く考えずに写真と呼べるもの以外の検挙事例は、2013年12月19日に初公判が開かれるに至った1件しかない。
 部分的に本物の児童である場合はどうか。顔が児童でも首から下が児童でない場合、児童を描写した部分が各号に該当しないため、その画像は児童ポルノではない145衆11の枝野幸男[038]・大森礼子[039]・松尾邦弘[041]・小林奉文[042]と145衆12の大森礼子[035][206]の各発言・森山2005の187頁等参照。】。他方、首から下のみが児童である場合、児童を描写した部分が各号に該当すれば、その画像は児童ポルノであるとされる145衆11の枝野幸男[038]・大森礼子[039]・松尾邦弘[041]・小林奉文[042]と145衆12の大森礼子[035][206]の各発言・森山2005の187頁等参照。】。ただし、このような状況が明示された実際の摘発例は知られていない。
 実在する児童がモデルのようなものであっても、実在しない姿態の描画ならば、この法律によって児童ポルノとされることはない145衆11の大森礼子発言[037]。】。実在の児童は、参考にされてはいても、描写されてはいないからである。
 実務上は、児童の特定までは必要とされておらず、実在性が厳密に要求されているわけではない【ブログ「奥村弁護士の見解」中の2008年4月14日の記事が参照しやすい証言である。また、145衆12大森礼子[204]発言参照。】。タナー法による年齢の推定をもって児童たることが認定される慣行が確立しているため、児童ポルノに見える何かは、事実上自動的に児童ポルノとして認定されているとしても過言ではない。

わいせつとの関係

 この定義の長い記述の中に、「わいせつ」のような端的な文言はない。即ち、児童ポルノは、「わいせつ」な物ではない【145参8の大森礼子発言[036]・145衆12の円より子発言[012]、森山2005の79-80頁等参照。】。しばしば「これはわいせつだから児童ポルノだ」的な言説が見られるが、これは誤っている。もっとも、第二・三号には、かつて最高裁判所が示したわいせつの定義から引用された文言が含まれる。わいせつ性と児童ポルノ性は、重なりのある別の概念だということである【二つの概念については、園田1999の27-29頁参照。もしかすると二つの概念の相違を理解していないと疑える表現の例として、高市2013の問1がある。】
 わいせつでない児童ポルノも存在できる。例えば、一部にぼかしがあるものでも児童ポルノに該当し得るとされる【145参8の大森礼子発言[032][034]】
 刑法175条にいうわいせつにあたる何かが児童を演者等として作られていても、児童ポルノとは評価されないものがある。少なくとも、「視覚により認識でき」ないものは、「わいせつ」でありえても【小説についての1980年11月28日の最高裁判決(いわゆる「四畳半襖の下張事件」、最高裁判所刑事判例集34巻6号433頁・判例時報982号64頁・pdf等)とか、ダイヤルQ2によって提供された音声がわいせつであるとされた1991年12月2日の大阪地裁判決(判例時報1411号128頁)等、多数の前例がある。】、児童ポルノとはされない【森山2005の78頁参照。】
 なお、歴史的には、児童を被写体あるいはモデルとするポルノのようなものは、必ずしもわいせつであるとされていない【園田1999の15頁参照。】

特殊な要件

 第3項第2・3号は、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との文言で、児童ポルノとされるものを限定している。この文言は、見る側の視点に拠るものである。医学書等を児童ポルノから除く趣旨である【森山2005の79頁参照。】とはいえ、虐待としての意味や性質と無関係な定義は、法律全体の趣旨と整合しない。なお、第1号に同種の表現がないのは、「類型的に」要件が満たされるためだとされる【森山2005の78頁参照。】
 両号における興奮・刺激の基準は、「一般人から見まして」そう言えるかどうかによって判断されるべきものだと、少なくとも立案者は考えている【145参8の大森礼子発言[077]、森山2005の186頁参照。】。「ごく一部の人しか性的な刺激を受けない」場合は、児童ポルノに該当しない145衆11の大森礼子発言[062]】。初期の裁判例も、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の文言について「一般の通常人が具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかを判断することが可能な基準を示しているということができ、不明確であるとはいえない」としている【2002年6月17日の最高裁判決(最高裁判所裁判集刑事281号577頁・pdf)。】
 しかし、この理解もまた、一筋縄の話として片付くものではない【森山2005の185頁参照。】
 ある裁判例は、7歳から9歳の女子児童4名のうち3名を撮影した被告人に関し、3号の要件は「その撮影目的や撮影された内容等に照らし、一般人を基準として、見る者の性的興味に訴えようとするものと認められるものと解すべきである。そうすると、本件起訴にかかる画像は、いずれも被告人が自己の性的し好を満足させる目的で、被害児童の陰部を撮影したものであり、しかもそれは性器を接写するなどして、殊更これを強調する内容となっているから、一般人を基準として判断して、見る者の性的興味に訴えようとするものと認められる」とした【2009年3月3日の仙台高等裁判所判決。】。そこに、被写体の年齢への考慮はない。
 この他に、「女児である被害児童のパンティ等を下ろして陰部を露出させる姿態をとらせ、これを撮影、記録」などした事案について、「各被害児童の年齢が当時6歳であったことを考慮しても、社会通念上、一般人を基準として性欲を興奮させ又は刺激するものに該当する」とした例がある【2012年11月1日の東京高等裁判所判決(pdf・高等裁判所刑事判例集65巻2号18頁・判例タイムズ1391号364頁)。】
 4歳から8歳の女児5名に関連し強姦等もなされた事案では、裁判所は、児童ポルノにつき「刑法のわいせつ物や図画などよりもかなり広範に処罰の対象としたものと考えられる」とした上で、第2・3号の要件は、「必然性、合理性が認められるなどして性欲を興奮させ又は刺激する度合いが相当程度緩和されているもの」「を処罰の対象から除外するために付されたものであり、同要件は相当程度緩やかに認められると解すべきである」とした。その上で、該当性の判断を「児童の裸体等に特に過敏に反応する者を基準として判断したのでは処罰範囲が過度に拡大してしまうことから、一般人を基準に、姿態、場面、周囲の状況、構図等を総合的に考慮して判断する」との基準を示し、6歳の女児を被写体とする動画であっても「乳首を露出することは、通常、一般人から見て、相当程度性欲を興奮させ又は刺激するものであるというべきである」と結論づけた【2012年7月19日の神戸地方裁判所判決(pdf)。】
 さらに、0歳児を被写体とするものが児童ポルノと認定された例があるらしい。【2006年12月26日のさいたま地裁判決がある、らしい。が、奥村弁護士の証言その1その2以外の資料が見当たらない。】
 これらの比較的新しい裁判例に従えば、未就学児童の半裸を見た「一般人」が刺激され興奮することになる。この基準についての裁判所の理解は、きわめて緩やかなものだと考えて差し支えなさそうである。

3号ポルノ

 第3項第3号は、特有の曖昧さと広範さを指摘されてきている。2号のようにある程度具体的な状況を定めておらず、様々な解釈が可能な事態を記述し、かつ、上述の特殊な要件が関わるからである。それ故、例えば「児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性がある」場合を処罰から除く趣旨を示し、制限的に解釈する基準を提示する判例【2000年7月17日の京都地方裁判所判決(判例タイムズ1064号249頁以下)。なお、この判決は罪数処理について最高裁に覆されている。また、上掲の2012年7月19日の神戸地方裁判所判決等参照。】も見られる。しかし、条文に根拠があるわけではないため、そこに「処罰の必要性」があれば、上記の性欲要件に関してと同様に、そのような解釈がなされないことが予測されるところでもある。

虐待との関係

 児童が虐待された記録であっても、これらの要件を満たさないものは児童ポルノではない。例えば、精液まみれの顔写真は、児童ポルノではない【2010年9月7日の高松高裁判決。】

第三条 (適用上の注意)

(なし)

 この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。

 この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。

 1999年の規定は、売春防止法第4条と全く同じものである。その他の法律にも、類似の規定が見られる【園田1999の33頁参照。】。場合によっては過剰な取締の根拠となる法律にはしばしば含まれる、ある程度一般的な規定に過ぎない。

第四条 (児童買春)

第三条
 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 児童買春をした者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 児童買春の罰則である。ここで罰せられるのは、第2条が定義する児童買春であって、児童買春的な現象が例外なく罰せられるというわけではない。

主体

 児童買春についても、この法律が禁ずる他の行為と同様に、第二条第二項の定義に行為者を限定する定めがない【園田1999の34頁参照。】。したがって、18歳未満の者の行為も犯罪として把握される。これに対し、いわゆる淫行条例には、類似した行為について、概ね18歳未満の者の行為を罰しない限定をする例が一般的である【立法時の議論については、特に145衆11の木島日出夫発言[090]・堂本暁子発言[091]・大森礼子発言[092]参照。淫行条例については別ページの比較あるいは条文参照。】

相似と相違

児童福祉法第三十四条(抄)
@ 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六  児童に淫行をさせる行為

児童福祉法第六十条(抄)
@ 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

刑法第百七十六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

刑法第百七十七条(強姦)
 暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

刑法第百七十九条(未遂罪)
 第百七十六条から前条までの罪の未遂は、罰する。

刑法第百八十条(親告罪)
@ 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
A  前項の規定は、二人以上の者が現場において共同して犯した第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。

 児童買春のような出来事が起きたとき、他の犯罪が構成される場合もある。上述の都道府県条例の淫行罪の他、児童福祉法の淫行罪や刑法の強姦罪強制わいせつ罪がその典型である。
 児童買春罪と児童福祉法の淫行罪は、親告罪ではない。したがって、被害者が告訴せずとも、警察の捜査と検察の起訴に支障がない。この点は、刑法の強姦罪・強制わいせつ罪と異なる【145参8の円より子発言[026]、園田1999の34-35頁、森山2005の84頁参照。】
 行為の内容と相手の年齢次第では、対償の有無等の事情に関わらず、刑法の強制わいせつまたは強姦が成立する。この場合、未遂であっても処罰の対象となる。
 児童福祉法の淫行罪は、管理売春等を想定した立法であったものの、「させる」行為の対象が自分である場合も含まれると解することが可能な判例【1998年11月2日の最高裁決定(判例時報1663号149頁・ pdf等)。】が確立している。このため、買春のような行為についても、適用が不可能ではない。もっとも、わかりやすい単純な買春への適用例は知られていない。

第五条 (児童買春周旋)

@ 児童買春の周旋をした者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
A 児童買春の周旋をすることを業とした者は、五年以下の懲役及び五百万円以下の罰金に処する。

@ 児童買春の周旋をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
A 児童買春の周旋をすることを業とした者は、七年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。

 2004年の改正で、他と同じく重罰化されている。

第六条 (児童買春勧誘)

@ 児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするように勧誘した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
A 前項の目的で、人に児童買春をするように勧誘することを業とした者は、五年以下の懲役及び五百万円以下の罰金に処する。

@ 児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするように勧誘した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
A 前項の目的で、人に児童買春をするように勧誘することを業とした者は、七年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。

 2004年の改正で、他と同じく重罰化されている。

第六条の二 (児童ポルノ所持等の禁止)

第八条
 何人も、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持してはならない。

 何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない。

 2013年の改正案によって追加されようとしている規定である。この規定は、所持・保管一般の違法化に過ぎず、罰則を伴わない。仮に単純所持が犯罪化されるならば、このような規定は不要である。
 最初の立法の時点で、既にこのような規定の導入が意図されていた。しかし、この案は採用されなかった。全会一致による法成立を目指すために、推進者側が諦めたからである【森山2005の56,61-62,204-206頁等参照。】。
 このような単なる禁止であっても、処罰化への準備として捉えることができる。このとき、その問題性が明らかである。。新たな所持規制は、しばしば、偽造クレジットカードのようなもとより違法な目的のために作られる物体【刑法第二編第十八章の二参照。】とか、麻薬・覚醒剤の厳密な定義から外れる薬物のようないわゆるグレーゾーンとかに対して導入されてきた。児童ポルノはそれらと異なり、平穏に公然と適法に製造され流通する時代があった。また、他の禁制品には明瞭な定義が存在し、禁止と許容の境界が明らかである。他方で、児童ポルノの定義については、この頁で別途触れたような難点がある。その所持の違法化には、それらとは異なる大きな政策の転換という意味がある。児童ポルノを所蔵していることがある日を境に違法とされるならば、少なくとも相応の準備期間と定義の明確化が必要だと考えられる。

第七条 (児童ポルノ頒布等)/(児童ポルノ所持、頒布等)

第六条
@ 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、若しくは公然と陳列し、又はこれらの目的で製造し、所持し、運搬し、輸入し、若しくは輸出した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
A 児童ポルノの頒布、販売、業としての貸与、又は公然陳列に係る広告をした者も、前項と同様とする。

@ 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
A 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
B 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

@ 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
A 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
B 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
C 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
D 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
E 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

@ 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする。
A 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
B 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
C 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
D 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
E 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
F 第五項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 児童ポルノの製造から流通に至るまでの行為が、まとめてこの第七条に書かれ、犯罪とされている。
 2013年の改正案は、見出しを改めて新たな第1項を挿入し、以下の項数を繰り下げようとする。これにともない、引用される項数についても必要の限りで変更される。この変更は、他の条項にも及ぶ。

主体

 法は、これらの犯罪の主体を限定していない。このため、例えば児童が自ら被写体となったポルノを自主的に誰かに送った場合、児童の罪責が問われても、罰則にとっての論理的な不整合は生じない。しかし、法全体の趣旨からすれば、児童の罪責を問うべき場合は相当の例外にとどまると解せざるを得ない。
 児童に撮影させて画像を送らせた過去の事案では、一連の行為を命じた者が間接正犯とされるなどの構成で、実際に撮影を行った児童の責任は追及されていないのが一般的である【2009年12月3日の大阪高裁判決(公刊物等登載なし)・2010年8月2日の東京高裁判決(公刊物等登載なし)等。】。間接正犯構成は、児童が道具として正犯に利用されたとして扱うものである。この考え方は、一般的には、事情を知らない者を利用する場合を把握する。つまり、例えば毒物や爆弾を運んだ郵便局員を犯罪から解放する概念が、間接正犯である。児童ポルノ製造・提供関連の事例をそのように考えてよいのかという問題はあるが、裁判例が蓄積され、実際的な解釈はほぼ確立していると考えざるを得ないだろう。法の趣旨を尊重する限りでは、児童の罪責を問わない方向性に批判の余地はない。もっとも、法的な構成についてはこの限りではない。
 上記の事情とは異なる例として、2014年1月10日の長野県警による発表に基づき、自身の性器の画像をtwitterで公開していた16歳の被疑者が児童ポルノ公然陳列等の罪で送検された例が報道されている。今後類例が続くかどうかは、定かでない。類例が蓄積されれば、間接正犯となるべき者がいなくてもそれを犯罪として扱うという当局の意思が示されることになる。

製造

 児童ポルノの製造は、二種類のものが罰せられる。提供目的の場合を第2・5項が、一定の「姿態をとらせ」ての場合には目的の有無に関わらず第3項が、それぞれ律する。例えば自己のためにのみなす盗撮のようなその他の製造は、この法律によっては不可罰である。
 2・5項は、目的を欠けば罪とならない。親が子をなんとなく撮影し、たまたま映像が児童ポルノに該当するような場合は、不可罰である。3項は児童に2条3項各号の姿態をとらせる行為を構成要件として規定しており、児童に「姿態をとらせる行為」を検察官が罪となるべき事実に摘示する必要がある【2011年5月11日の名古屋高裁判決(公刊物未登載)。】。なお、児童の同意は違法性を阻却しない【2010年3月23日の東京高裁判決(東京高等裁判所(刑事)判決時報61巻1〜12合併号65頁)。】

 製造という言葉の意味は、簡単に言えば、文字通りであるというだけのことになる。だが、その範囲は広い。
 撮影は、既に製造である。性交等をデジタルビデオカメラで撮影して記録することのみでも、製造とされている【例えば2009年10月21日の最高裁決定(最高裁判所刑事判例集63巻8号1100頁)。】
 撮影の後の頒布等に向けられた処理も、製造である。例えば、撮影済みの画像を「別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為」が新たな3項製造罪とされた事例【2006年2月20日の最高裁決定(判例時報1923号157頁・判例タイムズ1206号93頁・pdf等)。】とか、犯意を継続して撮影し、データを記憶媒体に保存した際、撮影と保存それぞれの行為が3号製造罪とされた事例【2007年9月4日の札幌高裁判決(高等裁判所刑事裁判速報集(平19)号522頁)。】がある。なお、これらの判例には罪数処理について疑義を挟む余地があるものの、この点は別論である。
 児童に自らの児童ポルノを製造させた事案(いわゆるsexting)では、児童自身の2項製造罪と1項提供罪が成立し、させた者は教唆犯か共同正犯になるとされていた【森山2005の190・199頁参照。】。しかし、脅迫等の場合に間接正犯とする例が見られるようになった【2007年12月4日の大阪高裁判決(公刊物未登載)・2012年5月31日の大阪高裁判決(公刊物未登載)等。】。また、共同正犯とした例もあるらしい。いずれの立場であれ、児童が処罰されないことと刑法総論的な考え方の辻褄を合わせるのが大変であることに変わりはない。

所持・保管

 旧条文から明らかな通り、何らかの所持に対する処罰は、2013年の改正案に特有ではない。所持への処罰が新たに導入されるかの如き表現は、誤解に基づくものとして受け取られかねない。
 この第七条に限らず、児ポ法には、過失犯の処罰規定が存在しない高市2013の問4・5参照。】。このため、気にせず、またはうっかり児童ポルノを所持または保管しても、犯罪ではない。そこに故意がないからである。
 同項は、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者」への処罰を新たに定める。このように書かれた規定は、単純所持への処罰ではない。この規定は、傾向犯ないし目的犯として理解されざるを得ない。常識的な理解では傾向犯ということになろう。この規定が示す犯罪が両者のいずれであるとしても、この「目的」という主観的要素抜きではその所持者に犯罪が成立しないことに相違はない。児童ポルノをあえて所持していれば、その所持は故意に基づくものとされる。しかし、所持することについての故意にとどまらず、それを乗り越えてこの「目的」までがなければ罰せられないということになる。
 案7条1項は「自己の性的好奇心を満たす目的」でない所持を処罰しないため、例えば脅迫いやいやがらせのための所持は、被害者に生ずべき危険の有無に関わらず、処罰の対象とならない。
 かような規定につき、憲法第39条が定める遡及処罰の禁止の考え方に反するとの意見が見られる。これは誤りである。仮にこの案が法律として成立したとしても、処罰の対象となるのは、施行後の行為のみである。また、もし一部の意見が妥当なものであるならば、すべての所持規制は立法と同時に違憲無効とされることになる。しかし、そのような裁判例は存在しない。同時に、この法律が含む既存の所持禁止規定は、平穏に運用されている。かような主張が認容されるべき根拠は、存在しない。

 そのあたりはともかく、合わせ技による過剰な取締の可能性を否定することができない点は、懸念され得る。少量の所持・保管に対する処罰が、新第1項によって新設される。第2条第3項が定める最も広汎な定義によって何らかの映像の児童ポルノ性が認定されれば、この項の犯罪が客観的には成立し、残るは主観的要素ということになる。主観は、客観的に観察可能な証拠から認定される。客観的な「犯罪」が少量の所持から成立するようになるため、安易な主観の認定による取締がなされる余地が生まれると考えるのは、不自然ではない。そのとき、故意を欠く旨の主張が通じるかどうかは、実体法の定めと直結しない、実態に関わる問題である。このような事態を想定して考えるならば、事実上の単純所持処罰が新設されようとしていると捉えることもできなくはない。日弁連は、どうやらそのような立場らしい。規制推進派も、しばしば事実上は単純所持の処罰を目論んでいることを漏らしがちである【あからさまにリンクすると分析されて書き換えられそうなのであえて明示を避ける。】。だが、それでも、注釈抜きで単純所持として語ることは、誤りである

提供等・陳列

 2004年改正以降における提供とは、相手方がそれを利用できるようにする行為である【森山2005の95・188頁参照。】
 リンクの設定も提供である【森山2005の202-203頁、2013年7月9日の最高裁決定(pdf)参照。】
 1999年の規定では頒布・販売または貸与とされてきたものが、2004年改正により、提供という一つの概念にまとめられた【森山2005の95-96頁参照。】
 例えば入荷した児童ポルノを内容を知らずに陳列した書店員の行為のような、過失によるものは、処罰されない【145参8の大森礼子発言[047]参照。】。提供・陳列についても過失犯への罰則が存在しないからである。

提供目的

 所持は、提供目的の場合に2・5項によって罰せられる。この目的は、提供されるべき完成品なしに認定される。
 刑法175条について、販売すべきもの自体ではない何かの所持について、販売の目的が認められてきた【マスターテープ1950本を所持した事案の富山地裁1990年4月13日判決(判例時報1343号160頁)とか、ビデオテープ369本のうち365本がマスターであった東京高裁1991年2月18日判決(公刊物未登載)等。】。児ポ法に関しても、デジカメで撮影されたデータについて、目にぼかしを入れるなどの加工を前提にHDDに保存していた事案で、2004年改正前の児ポ法および2011年改正前の刑法175条の「販売の目的」が認められている【最高裁2006年5月16日決定(判例時報1953号175頁・判例タイムズ1227号187頁・pdf等)。】。そこでは、原本と販売等されるべきものの同一性は、厳密には要求されていない。

保護法益

 この罰則は第一次的には何を守るためにあるのかというお話が、保護法益についての問題である。
 児童ポルノへの規制は、第1条が定める法全体の目的に照らし、個人的法益の保護に向けられていると解される。すなわち、児童が被写体とされることで害され、児童ポルノ的に描写されたものが流布することによって更に害されたりすることが犯罪の本質であり、罰則は具体的な児童の個人的法益を保護する趣旨のものとして理解されるべきところである145衆12の 大森礼子[067]・福岡宗也[068]・木島日出夫[199][201]・林芳正[200][202]各発言、森山2005の94頁、2004年改正前の規定に沿った奥村弁護士の講演録等参照。】。立法時には、罰則につき「あくまで児童を性的搾取、性的虐待から守り、その児童の人権を保護するもの」145衆12の円より子発言[049]。】だと強調されている。しかし、裁判例は、必ずしもこの理解に基づいていないようである【説明がややこしくなるので参照判例等を略す。】
 仮に第7条の罪を社会的法益に対する罪として単純に理解するならば、不都合が生じる。これらの犯罪から、注釈抜きに被害者と呼べる存在が消えるからである。これは、児童の保護を旨とするこの法律にとって、根本的に矛盾するとも言える事態である。
 他方で、個人的法益説を貫いても、問題が残る。18歳になった後に自身を被写体とする児童ポルノを公開する者がいたとき、これに関連する一連の行為が、法益の保護が放棄されたという理由で、処罰されないとも考えられるからである。このように考え、これを前提とした法の運用がなされれば、児童ポルノの流通を阻止できないという難点が生じる。なお、このような処罰の間隙が生じても、「被害者の保護」についての難点としての指摘には難しさがあることに留意が必要である。もっとも、児ポ法以外の分野には、いわゆる被害者の承諾が否定された判例も存在する。このような法益の放棄が認められないと考えることも、不可能ではない。
 学説には、何らかの折衷的な理解を示して判例を合理化する立場も見られる【出典例示略。】

罪数

 保護法益と関連したややこしいお話になる。さしあたり、togetterの「奥村徹弁護士とアグネス・チャン氏の間の児童ポルノ罪数議論」あたりを参照されたい。
 条文の文面を前提に、児童ポルノ関連犯罪を個人的法益に対する罪であると解するならば、ほとんど総ての関連する行為がその都度一つの犯罪となる。多数の犯罪が存在しても、刑法第47条に従って刑の上限が重い罪の1.5倍となるため、一括して扱われた犯罪の刑の上限は、概ね7年6月となる。
 このとき、不都合が起きることがある。刑法第175条の罪は、社会的法益に対する罪なので、少なく数えられやすい。このため、その映像が「わいせつ」であれば、複数回の児童ポルノ提供罪が、最少ならば一つのわいせつ物等頒布の罪として数えられることになる。この場合は、刑法第54条により、刑の上限が5年となる。他方、数回に渡るわいせつでない児童ポルノの提供は数罪として扱われ、刑の上限が懲役7年6月となる。わいせつな児童ポルノを提供すると、わいせつでない児童ポルノを提供するよりも、罪の上限が低くなってもおかしくないのである。
 裁判例も、数回に渡りわいせつな物でもある児童ポルノを不特定又は多数に向けて提供した事例において、「わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ、その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供、同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は、それぞれ社会的、自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから、結局以上の全体が一罪となる」としている【2009年7月7日の最高裁決定(裁判所時報1487号18頁・判例タイムズ1311号87頁・判例時報2062号160頁・最高裁判所刑事判例集63巻6号507頁・最高裁判所裁判集刑事297号1頁・pdf)。】
 なお、上掲の例と条件が異なれば、時間と空間の一部を共有する犯罪が数罪を構成するものとして扱われることもある。裁判所は、児童福祉法上の淫行させる行為20回のうち13回において同時に児童ポルノを製造した事案において、児童福祉法第34条第1項第6号に触れる行為と児ポ法第7条第3項に触れる行為とは、「一部重なる点はあるものの、両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや、両行為の性質等にかんがみると、それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから」両罪は観念的競合の関係にはなく併合罪の関係にあるとした【2009年10月21日の最高裁決定(裁判所時報1494号3頁・最高裁判所刑事判例集63巻8号1070頁・判例タイムズ1326号134頁・判例時報2082号160頁・最高裁判所裁判集刑事297号551頁・pdf)。】。
 製造罪について考えても、話はややこしい。罪数は、最大限保護法益に沿って考えれば、シャッターを押すごとに増える。しかし裁判所は、あまり罪数を増やさない。例えば、買春等と同時に一連の行為がなされた事案において、3件の製造が「同一の被害児童との性交等の画像を収録したDVD―Rを繰り返し製造したというものであり、相当期間にわたり反復累行された犯行の一環であることにも照らして包括一罪に」された例がある。【最高裁2009年7月7日決定(判例タイムズ1311号87頁・判例時報2062号160頁・pdf等)。】
 いずれにせよ、この第7条と罪数は、裁判例を前提とした解釈論にとっても厄介な論点である。

刑法との関係

第七条(抜粋再掲)
@ 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
A 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。

刑法第百七十五条(わいせつ物頒布等)
1995年改正
 わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

2011年改正
@ わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
A 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

 1995年改正で口語化された第175条第一文が、1999年に成立した児ポ法第7条第1項の下敷きとなっている。その酷似した文面の故に、児ポ法第7条第1項が刑法175条と概ね同様のものとして裁判所に解釈されることにならざるを得なかったと考えられる。なお、法案の審議中、法務省の当局者は、「法案の文言というものの解釈が、既存のものと今御議論いただいているものとで同じ文言であれば、同じような解釈というのが自然な発想でございますが」【左記は145衆11の政府委員法務省刑事局長松尾邦弘発言[014]からの抜粋である。】と言明している。結果として、児ポ法の罰則が社会的法益を保護するものかのような解釈・運用を導いた【摘示を省くが、判例のこの点についての理解もまた一筋縄ではない。】

表現規制

 第7条の規定も、表現を規制するものである。しかし、表現に対する何らかの規制は、憲法第21条の保障にも関わらず、様々になされている刑法第230条等参照。】。したがって、表現を規制するという一点をもって批判の対象としても、規制の不当性を論証したことにはならない【表現の自由との関係について、145参8の林芳正発言[039]、森山2005の94・171-172頁参照。】

第八条 (児童買春等目的人身売買等)

@ 児童を児童買春における性交等の相手方とさせ又は第二条第三項第一号、第二号若しくは第三号の児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的で、当該児童を売買した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
A 前項の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住国外に移送した日本国民は、二年以上の有期懲役に処する。
B 前二項の罪の未遂は、罰する。

 特段の変更を経ていない規定である。しかし、児童ポルノと児童買春にまつわる現象において、諸外国で一般的な認識の基礎には、この種の現象がある。国内の事象のみを見ていれば明らかでないかも知れないが、この種の事案が生じがちであることが、児童ポルノが単なる虐待とか「わいせつ」と異なる重大さを見出される根拠である。

第九条 (児童の年齢の知情)

 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条、第六条、第七条第二項から第七項まで及び前条の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

 第7条への第1項の挿入にともなう項数繰り下げと第6条の2の挿入を受けた変更が、2013年の改正案に含まれている。
 児童の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れないとの規定である。しかし、対象は、児童を使用する者のみである。それ以外にとって、この第9条の影響はない。このため、買春の被疑者等から、しばしば年齢を知らなかったとの主張がなされてきた。前例の有無に関わらず児童ポルノについても事情は同様であるため、処罰を妨げがちなこの第9条の解釈が新たな論点として浮上することもあろう。

第十条 (国民の国外犯)

 第四条から第六条まで、第七条第一項及び第二項並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

 第四条から第六条まで、第七条第一項から第五項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

 第四条から第六条まで、第七条第一項から第六項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

 第7条への第1項の挿入とこれ以下の項数繰り下げを受けた変更が、2013年の改正案にも含まれている。

第十一条 (両罰規定)

 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五条から第七条までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五条、第六条又は第七条第二項から第七項までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

 第7条の項数繰り下げと第6条の2の挿入を受けた変更が、2013年の改正案に含まれている。

第十二条 (捜査及び公判における配慮等)

@ 第四条から第八条までの罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
A 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、児童の人権、特性等に関する理解を深めるための訓練及び啓発を行うよう努めるものとする。

@ 第四条から第六条まで、第七条及び第八条の罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。

 第6条の2の挿入を受けた変更が、2013年の改正案に含まれている。

第十三条 (記事等の掲載等の禁止)

 第四条から第八条までの罪に係る事件に係る児童については、その氏名、年齢、職業、就学する学校の名称、住居、容貌(ぼう)等により当該児童が当該事件に係る者であることを推知することができるような記事若しくは写真又は放送番組を、新聞紙その他の出版物に掲載し、又は放送してはならない。

 第四条から第六条まで、第七条及び第八条の罪に係る事件に係る児童については、その氏名、年齢、職業、就学する学校の名称、住居、容貌等により当該児童が当該事件に係る者であることを推知することができるような記事若しくは写真又は放送番組を、新聞紙その他の出版物に掲載し、又は放送してはならない。

 第6条の2の挿入を受けた変更が、2013年の改正案に含まれている。

第十四条(教育、啓発及び調査研究)

@ 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
A 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

@ 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、頒布等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることに鑑み、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
A 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、頒布等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

 2013年の改正案は、第7条に所持の処罰を取り入れることにともなって、文言を加えようとする。同時に、表記の変更も企てられる。なお、平仮名の「かんがみ」が第1条にも存在するが、そちらについての変更は提出時の法律案に記載されていない。

第十四条の二 (インターネットの利用に係る事業者の努力)

 インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。

 2013年の改正案は、ネットを通じた児童ポルノの拡散を抑止する努力義務を関係事業者に課そうとする高市2013の問7参照。】。この努力義務に基づく行為は、電気通信事業法第4条が定める通信の秘密への侵害ともなりかねない。しかし、一定の条件で通信の秘密が保護されない場合が既に他に存在するいわゆるプロヴァイダー責任制限法第4条第1項がその典型である。】ことと、具体的な義務が存在しないことから、本条の案に対する有効な批判は難しいと考えられる。

第十五条 (心身に有害な影響を受けた児童の保護)

@ 関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
A 関係行政機関は、前項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。

@ 厚生労働省、法務省、都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
A 前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。

 2013年の改正案は、「関係行政機関」の名を明示しようとする。関係行政機関は、名を挙げられることで責任を明示させられることになる。しかし、この法律は、特段の予算措置を予定していない。

第十六条 (心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)

 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。

 今後に「展望を示す」【145参8の吉川春子発言[066]。】趣旨で置かれた規定である。児童を保護する展望が示されたとしても、これが具体的な施策・政策と結びつかない歴史の積み重ねは、最早新たな「展望」を示していると解しても差支えはなかろう。

第十七条 (国際協力の推進)

 国は、第四条から第八条までのに係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。

 国は、第四条から第八条までの規定に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。

 2013年の改正案は、犯罪としない単純所持についても、防止を要する行為として、国際協力の対象に含めることを宣言する。

2013年改正案附則第二条 (検討)

@ 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において「児童ポルノに類する漫画等」という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。
A 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

 2013年の改正案の附則第2条は、非実在の児童を描写した「児童ポルノ」への規制を目指す旨を宣言する。
 これは、直ちにフィクションの表現が児童ポルノとして規制されるという意味ではない。確かに、この文面からは、事実上は数年後に規制を導入することを予定するという意味が読み取られる。しかし、それ以上でもそれ以下でもないことには、注意が必要である。
 第1条が示すものから考えるならば、実在の児童が被害者とならないフィクションへの規制は、この法律の趣旨と無関係なものとして排されるはずである高市2013の問14参照。】


全体

予算との関係

 159回国会の審査経過概要(2004年改正成立)・183回国会の審査経過概要(閉会中審査へ)等、この法律についての国会の記録は、「予算との関係」を「無」としている。児童の保護という新たな事業への着手を謳いながら、予算措置は不要だというのである。すなわち、この法律に基づく児童の保護は他の業務の片手間にのみなされるべきだとの立法者の意思が、ここから推認される。

違憲の主張

 この法律の少なくとも一部を文面上違憲とする主張が見られるようである。端的に表現すれば、裁判所に通らない主張は無意味である。既に、細かい論点に関連して触れた他にも、この法律の規定を合憲とする裁判例が確立している【めんどいので判例の呈示を略す。】
 なお、近いところにある青少年条例については、古くから批判があり、憲法学者等の違憲説も根強い。しかし、裁判所は、これを容れていない。とはいえ、正面切って無問題と断ずるにも無理がある部分については、合憲限定解釈がなされている【1985年10月23日の最高裁判所大法廷判決(最高裁判所刑事判例集39巻6号413P・判例時報1170号3P・判例タイムズ571号25P・pdf等)が典型である。】

影響の有無

 一部には、「児童ポルノの存在が児童の性的被害者を増やしている」というようなご主張がある。確かに、実証的な研究は、ポルノ等への接触とそこで描かれるような行動の関連性を示している。
 例えば、「暴力的ポルノグラフィーを見せられた被験者が女性に対する攻撃性を顕著に増加させた」とするある程度実証的な研究がある【DONNERSTEIN,Edward・BERKOWITZ,Leonard著「Victim reactions in aggressive erotic films as a factor in violence against women」〔Journal of Personality and Social Psychology誌41巻4号(1981年10月)710-724頁〕
 あるいは、10〜15歳の男女を対象として、2006年から2008年までの間に1159人について「暴力的な性描写の視聴経験」と「性的な攻撃行動」との関係を調べたところ、見た事がある被験者がそうでない者よりも攻撃的な行動をとった経験は約6倍にのぼったという【YBARRA, Michele L.他4名著「X-rated material and perpetration of sexually aggressive behavior among children and adolescents」〔Aggressive Behavior誌37巻1号(2011年1月)1-18頁〕
 より多くのデータに基づくものもある。英語圏での46の実証研究を分析したところ、ポルノにさらされると「逸脱的な性行動を取る傾向」「性犯罪を遂行する傾向」「強姦神話を受容する傾向」等が2〜3割程度増加することが明らかになったとするものがその例である【PAOLUCCI,Elizabeth Oddone・GENUIS,Mark・VIOLATO,Claudio著「A Meta-analysis of the published research on the effects of pornography」〔この三人の共著書籍『The changing family and child development』(2000年Ashgate社刊)の一部〕48-59頁】
 日本国内にも、研究ないし調査の結果が存在する。ポルノ的なゲームへの接触が「罪悪感」を減らし、その傾向が他のメディアよりも強いとする例沖裕貴・林徳治「仮想体験と性的問題行動」『日本教育情報学会第15回年会論文集』15巻(1999年11月11日)52-55P】や、中高生の男女を対象として調べたところ、ポルノコミックに接している者の方が、そうでない者よりも女性に伝統的役割を求める傾向・売買春を許容する傾向・交際を性的目的に限定する傾向のいずれも高かったとする例【総務庁『青少年とポルノコミックを中心とする社会環境に関する調査研究報告書』(1993年3月)】もある。アダルトビデオ・ホラー映像やゲームに関しての調査も、接触した表現と行動の暴力性の相関を示す【総務庁『青少年とアダルトビデオ等の映像メディアに関する調査研究報告書』(1994年3月)】
 また、異なる分野の話ではあるが、暴力的なゲームで遊び続けた者は暴力性を増すとの調査結果があるようである【"Violent video games make teenagers more aggressive, study finds"との報道(2012年)・研究を発表したチームが属する大学の公式サイトの記事大学公式サイト内の論文(pdf)参照。】
 上に例示した研究をもとに類推し、同様の因果関係を認めることが可能ならば、児童ポルノへの接触が児童ポルノが描写するような行為の実行に繋がる傾向があるものと考えてよいことになる。しかし、ここで例示した研究は、二つの例外を除き、因果関係ではなく相関関係だけを示している。鶏と卵のいずれが先なのかにつき、調査研究の方法論は答えてくれない。残りの二つについても、限られた条件下での成果であり、直ちに一般論として語られるべきものではない。同時に、児童ポルノへの類推が可能であるか否かは明らかでない。そして、児童ポルノと児童に対する行為の因果関係を示す研究は、どうやら存在していない。
 他方で、この因果関係を否定する方向の研究成果も存在する。ポルノ一般と性犯罪一般の関係について、日本において前者が後者を増やす影響を与えてはいない旨の、科学警察研究所に所属する著者を含む共著の研究成果が一例である【"Pornography, Rape and Sex Crimes in Japan"(1999年)。その後の研究については、ブログ「奥村弁護士の見解」中の2013年7月31日の記事に引用された部分参照。】。この方向の研究成果は、前提に広がりがあるのでたやすく類推できないとはいえ、珍しくない。心理学系の研究成果とか、Time誌の記事が紹介する研究とか、とりあえず例示するだけならば簡単に見つかる。】
 以上に見た通り、「ポルノの流布が被害者を増やす」という命題の真偽は、明らかではない。少なくとも、一般論として真とするには無理があるというところである。なお、国内の統計値が示すものについては、別頁でも触れている。

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