児ポ法周辺の数字

 幾つかの俗説を検証し、あるいは二つの数字に関係がないことを示すべく、数字をもとに検討する。正確には、本腰を入れて検証するに値するものを探す過程を公開する。扱いに難儀するような数字がけっこう出回っていたりするため、しばらくは停滞しそうな気がしないでもないので、気長に生暖かく見守っていただければ幸いである。
 数値の出典は、警察庁等が公開している国レヴェルの統計各種と各項に特記したもののみである。警察発表の統計のうち、刑法犯に関するもの等の大半は、ウェブサイトの統計のページからも閲覧可能な「〜年の犯罪」と題された統計書から数値を得た。その他あるいはウェブに掲載のない古いものについては、早川治「児童ポルノ問題の現状と今後の対策」(警察学論集63巻7号(2010年07月10日))や統計書・新聞記事等の印刷媒体も利用した。印刷媒体の利用は、確認あるいは補充にとどまった場合もある。傍論であるが、警察には、関連統計を簡潔に一覧できるような処理を望みたい。
 検証可能性を確保できるよう、それぞれの数値をcsv化したファイルをここで公開したいと考えてはいるが、性質が異なったり元データの形式の細部が異なったりといった問題とか、追加が頻繁になるので更新履歴の管理がえらいことになりかねないといった事情があり、どう処理し、あるいはせずに公開したものかと考えるのが難儀なため、とりあえず保留している。当分の間、これをお許しいただきたい。
 各節は、個々の節で独立した検討をしているため、順不同でも支障がなさそうではあるが、ある程度の分類を前提に配列している。
 1999年11月に児ポ法が施行されたことを念頭に置いて、統計値の変化を確認されたい。
 以上および以下は、2013年11月15日に最初に記し2014年2月18日までに補訂されたものである。


ページ内目次  01_強姦被害者の年齢層別の内訳と傾向から  02_刑法犯の傾向と罪種別の傾向  41_児ポ法の数字  50_漫画の量  51_コミケの参加者数と犯罪統計  52_漫画の売上と犯罪統計  61_アニメは性犯罪をもたらすのか?

01 強姦被害者の年齢層別の内訳と傾向から

図01-1 強姦件数と未成年の被害者数
図01-1 強姦件数と未成年の被害者数
強姦の認知件数が左の縦軸、未成年の被害者数が右の縦軸である。
 ポルノが性犯罪を誘発するという主張がある。法規制に大きな変化があった児童ポルノに関連してならば、法施行前後の変化によって、この説の妥当性を検証することができそうである。
 図01-1は、強姦について扱う。図が示す通り、強姦の認知件数そのものが、大きくは減少傾向にある。一時的な増加はあったが、かつての数には及ばなかった。そして、未成年が被害者となる事案の数は、全体の件数に概ね比例している。この傾向から児ポ法の施行が明白な影響をもたらしたと読み取ることは難しい。


図01-2 若い強姦被害者の数
図01-2 若い強姦被害者の数
未就学者の数が左の縦軸、他二項の数が右の縦軸である。
  被害者となった若年層の数の経年変化を見るのが、図01-2である。三つに分けられた被害者の年齢層は、きわめて例外的な未就学児も含め、おおよそ似た線を描く。なお、中学生が増えた時期は、強姦全体の件数も一時的に増えた時期と重なる。
 中学生については全体的な傾向の影響を受けるだけの被害者がいるが、それ未満についてはそもそも稀な事案しか存在しないことが、絶対数のみならず傾向からも伺える。
 そして、児ポ法の影響を読み取ることは、困難である。児ポ法が導入した新たな規制が強姦を増減させる力となったと考えるためには、相当の前提を重ねる必要がある。

02 刑法犯の傾向と罪種別の傾向

 刑法犯全体の数の変化と、個々の罪の変化には、どんな関係があるのだろうか。児ポ法以前十年を含む実際の数字から、確認してみたい。

図02-1 刑法犯全体とわいせつ物頒布等
図02-1 刑法犯全体とわいせつ物頒布等
刑法犯全体の値が左の縦軸、他が右の縦軸である。
 図2-1が示す刑法175条のわいせつ物等の頒布等として認知・検挙された件数は、刑法犯の全体の数とは比例せず、むしろ反対方向の変化を見せているとも見える。警察が取締を決意するかどうかに依存して認知・検挙の件数が変化する犯罪においては、このような値が得られるのは、自然であろう。


図02-2 刑法犯全体と公然わいせつ
図02-2 刑法犯全体と公然わいせつ
刑法犯全体の値が左の縦軸、他が右の縦軸である。
 刑法174条の公然わいせつについても、全体とのわかりやすい相関が見られない。この罪には175条のような事情がなく、通報を受けて事件として認知することが一般的であろう事案が積み重なっている。そこには、増加という明らかな傾向があるのみである。ただ、認知と検挙のずれが開き始めていることには、意味があるかも知れない。通報のされ易さあるいは認知の計上され易さが変化したのみなのか、それとも実際に不可解な事案が増えているのかについては、この値のみでは明らかでない。


図02-3 刑法犯全体と強姦・強制わいせつ
図02-3 刑法犯全体と強姦・強制わいせつ
刑法犯全体の値が左の縦軸、他が右の縦軸である。比較の都合上、強制わいせつの件数は実数を4で除した。
 強姦と強制わいせつのいずれについても、図02-3の通り、概ね刑法犯全体と同じ傾向が見られる。図01-1が示すように強姦の総数と未成年を被害者とする強姦の数が比例的であることと考え合わせれば、何らかの特別な影響力が働いた痕跡は見出され難い。

 これらの統計値から児ポ法の影響を読み取ることは難しい。仮にそのようなものが存在するならば、公然わいせつの増加傾向についてのみが、有意であり得そうである。だが、仮にこの相関を見出すならば、なぜ他の犯罪には相関を見出すことができず公然わいせつだけが特殊なのかと考えねばならない。この点についての有効な説明は、統計値から読み取られ得るものではない。また、児ポ法の構造から見ても、同法と関連付けた説明はできそうにない。

41 児ポ法の数字

図41-1 児ポ法の実績
図41-1 児ポ法の実績
一部の原資料では「送致件数」となっているものが別の一部の「検挙件数」と同数であることから、ここでは他と揃えて「検挙件数」と表示した。
 児ポ法関係の検挙件数につき、図41-1に四つの数値を図化した。検挙人数については件数と比例的なので無視した。また、被害児童数は、公表媒体による値のずれが見られるなどの理由で数値の信頼性に難があり、そもそも不詳のままの被害者を含まないという問題を抱えているので、あえて省いた。
 買春は減り、ポルノは増えている。ポルノのかなりの部分をインターネット関連が占め続け、買春のそれなりの部分を出会い系サイトが担い続けている。それ以上の何かをこれらの数字だけから読み取るのは、困難である。
 とりあえず可能なのは、実際の事象の件数に対し、これらの値が比例的ではないという疑いである。最も多い年の買春ですら、二千件に届いていない。そして、たやすく画像を流布させられる児童ポルノは、二千件に遠く届かない。しかし、その手軽さ故に、児童ポルノ事犯が買春を圧倒する量であっても、おかしくはない。ところが実際は、そうなっていない。それ故、何らかの外的要因がこの数字を生んでいると解釈しておいても、差し支えはあるまい。


図41-2
図41-2 児ポ法・刑法犯・物頒布等
図02-1に児ポ法の数字を加えた。刑法犯全体が左の縦軸、他が右の縦軸である。
 この図にわいせつ物等頒布等の値を書き並べると、途中での逆転こそあれ、ある程度似た傾向で数値が移動していることが明らかになる。その意味についても、様々な解釈が可能である。


50 漫画の量

図50-1 漫画の推定販売額とコミケ参加者数
図50-1 漫画の推定販売額とコミケ参加者数
漫画の億円単位の推定販売額が左の縦軸、コミケの年間参加者数が右の縦軸である。
 漫画の「量」を、どのようにすれば測れるのか。これを示す数字となり得るものとして、コミックマーケット年表が示す参加人員を年単位にしたものと、出版指標年報(全国出版協会出版科学研究所発行)各年度版が示す漫画の億円単位の推定販売額を比較した。両者の傾向に関連性を見出すのは困難である。ここからは、漫画の量を測る基準を定めることの困難さが確認される。市場での売上は前世紀末頃から減少を始めている。しかし、コミケの参加者数は概ね増え続けているのである。
 なお、漫画の中から一部を取り出してその売上に関する値を経年変化を含む統計値として扱えるものは、公開された資料の中には見当たらない。このため、一定の傾向を持つ漫画のみを取り上げて売上の数字を扱うことができない。そこで、不十分さを承知の上で、以下でも上掲の値を用いる。


51 コミケの参加者数と犯罪統計

図51-1 コミケ参加者数と性犯罪(1)
図51-1 コミケ参加者数と性犯罪(1)
コミケの年間参加者数が左の縦軸、強制わいせつと強姦の認知件数が右の縦軸である。
 ここでは仮にコミックマーケット(コミケと略す)への参加者数を用いて検討する。出典は、コミックマーケット年表である。商業出版と比較して描き手と読者の欲望が率直に発揮されやすい環境に大きな変化がないため、質的変化への配慮をひとまず無視できるという仮説が、その根拠である。
 図51-1は、コミケの主催者推定参加者数を年ごとに計算し、強制わいせつ・強姦の認知件数と同じ枠内に示したものである。この図51-1は数値の変動が大きいため、5年の平均値をもとに同様に作図したのが、次の図51-2である。


図51-2 コミケ参加者数と性犯罪(2)
図51-2 コミケ参加者数と性犯罪(2)
コミケの年間参加者数が左の縦軸、強制わいせつと強姦の認知件数が右の縦軸である。いずれの数も、その年から5年間の平均値としている。
  図51-2で変化を見ると、強いて言えば、一時期のコミケ参加者の増加傾向が、強制わいせつの増加傾向と重なる。コミケのようなものが刺激を広めるにはそれなりの準備が必要だったとでも考えるならば、図中の1985年頃までの曲線の隔たりに説明がつこう。しかし、図中の2002年以降に見られる強制わいせつの減少を説明するのは困難である。また、強姦は長い目で見れば減少傾向にあるため、コミケの参加者数との比例を見出され難い。むしろ、性欲を反映する漫画の隆盛が強姦を減らす効果を多少とも発揮していると解釈する方が、はるかに容易である。もっとも、それが妥当かどうかは、別論である。


図51-3 コミケ参加者数と性犯罪(3)
図51-3 コミケ参加者数と性犯罪(3)
コミケの年間参加者数が左の縦軸、強制わいせつと強姦の合計認知件数が右の縦軸である。いずれの数も、その年から5年間の平均値としている。
 強姦と強制わいせつを足した値をで考えたらどうなるかを、図51-3が示す。二つの線は、かけ離れてしまう。何らかの相関を見出すには、無理がありそうである。
 このような状況から、漫画は性犯罪を増やさないと考えても、とりあえず、ある程度妥当らしい仮説としてならば、問題はなさそうな気がしないでもない。


図51-4 コミケ参加者数とGDP
図51-4 コミケ参加者数とGDP
コミケの年間参加者数が左の縦軸、10億円単位の名目・実質GDPが右の縦軸である。
 以上のような程度ではちょっとアレなので、他の様々な統計値とも、比較を試みた。例えば、GDPとの関係を見ても、有意な相関は見出せそうにない。せいぜいコミケは景気に左右されないとの解釈を牽強付会に引き出せそうな描図ができたのみである。


図51-5 コミケ参加者数と失業率
図51-5 コミケ参加者数と失業率
コミケの年間参加者数の5年平均値が左の縦軸、%単位の完全失業率が右の縦軸である。
 上記の示唆を得たので、試みに、コミケの参加者数を失業率と比較してみた。すると、1990年以降のおおよその傾向に相似が見られた。この傾向は、例えば、無職でヒマだからコミケに行く層がいると考えれば説明できる。コミケは不景気にこそ強いという見方が成り立つことが示唆されるのである。


図51-6 コミケ参加者数と失業率
図51-6 コミケ参加者数と失業率
図15と同じだが、1990年以降のみの描図である。
 図51-6の通り、描図する期間を限ると、この傾向がより顕著となる。予定とは違うところにもしかして的なものが見つかってしまったが、ここではこれ以上の検証をしない。また、いかような解釈が妥当かについては、ここでは深入りしない。ただ、コミケの参加者数が示す数字は解釈の困難を抱えているようだというところについて、傍証を例示しておきたいのみである。このくらいくどい表現をしないと、「コミケは失業が増えると流行るとヤツが言っている」的な解釈を流布されかねないので、しつこい表現をしておく。これは、今後検証すべき可能な解釈に過ぎない。
 ここまでの雑駁な検討を端緒とし、何らかの方法で、漫画と性犯罪の関係について、統計値を元にした検討を進めたい。


52 漫画の売上と犯罪統計

図52-1 漫画の推定販売額
図52-1 漫画の推定販売額
縦軸は出版指標年報(全国出版協会出版科学研究所発行)各年度版が示す漫画の推定販売額を億円単位で示す。
 漫画の売上げについての二つの数字を挙げる。これらの数字は、雑誌と単行本に分かれた、各年の推定販売額である。二つの数字を消費者物価指数の全体値に基づいて修正したものも併せて示す。両者には大きな傾向の差がないことが示されたので、以下ではとりあえず修正を経ない値を用いる。


図52-2 漫画の販売額と犯罪統計
図52-2 漫画の販売額と犯罪統計
 2000年以降について、一般の市場での漫画の流通額と各種犯罪関連の統計値を並べたものが、図52-2である。相関を見出す余地はいくらでもある。しかし、漫画という大き過ぎる括りを前提としていることを忘れてはならない。この前提ある限り、何らかの因果関係を見出すのは、極めて困難である。


図52-3 漫画の販売額と刑法犯
図52-3 漫画の販売額と刑法犯
 図52-2より長期に見ても、漫画の販売額の推移は、刑法犯全体の傾向とあまり関係を持たなさそうに見える。


図52-4 漫画の販売額と強姦・強制わいせつ
図52-4 漫画の販売額と強姦・強制わいせつ
 強姦・強制わいせつについても、図52-2より長期に見ても漫画の販売額の推移とあまり関係を持たなさそうに見えるのは、同様である。
 仮にある種の漫画が犯罪統計に影響を与えているとしても、どうやら、漫画というあまりに大きい区切りからはこの影響を読み取ることはできなさそうである。


61 アニメは性犯罪をもたらすのか?

図61-1 アニメ産業の規模と刑法犯全体
図61-1 アニメ産業の規模と刑法犯全体
刑法犯関連の件数が左の縦軸、日本動画協会が公開したアニメ産業関連の値を億円単位で示すのが右の縦軸である。
 短期間のものとはいえ市場規模の数字が公開されているアニメに、犯罪の動向との相関はあるだろうか。広義の市場はキャラクターの売れ方に左右されがちで不安定なため、対前年比の話くらいしかできそうにない。ましてや他の値との比較には無理がある。狭義の市場は、検挙件数と似た推移を見せるが、因果関係を論じるとしてもどこにそれがあるのか不明である。


図61-2 アニメ産業の規模と各種刑法犯
図61-2 アニメ産業の規模と各種刑法犯
各犯罪の認知件数が左の縦軸、日本動画協会が公開したアニメ産業関連の値を億円単位で示すのが右の縦軸である。比較の都合上、強制わいせつの件数は実数を4で除したものを用いている。
 個別の犯罪についても、アニメ全体の様子との関連性を捻り出すのは難しい。


図61-3 アニメ産業の規模と児ポ法の犯罪
図61-3 アニメ産業の規模と児ポ法の犯罪
各犯罪の検挙件数が左の縦軸、日本動画協会が公開したアニメ産業関連の値を億円単位で示すのが右の縦軸である。認知件数の公開がないため、検挙件数を使用した。
 刑法犯ではなく児ポ法の犯罪についても、同様に、関係性を説明し難い。



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